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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)53号 判決

東京都三鷹市井の頭三丁目三三番二号

原告

武藤郁子

右訴訟代理人弁護士

宮下啓子

宮下明弘

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被告

武蔵野税務署長 青山泰三

右訴訟代理人弁護士

中村勲

被告指定代理人

小池晴彦

時田敏彦

齎藤春治

鍋内幸一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成二年七月三一日付けでした原告の平成元年分の所得税についての更正のうち、譲渡所得金額二四八六万九九九円及び納付すべき税額四九三万二〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも平成二年一二月二六日付けの被告の異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

一  特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例

譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費、その資産の譲渡に要した費用及び特別控除額を控除した金額とされる(所得税法三三条三項)が、平成二年法律第一三号による改正前の租税特別措置法(以下、右改正前の同法を「措置法」という。)三七条は、個人が、その有する資産で、一定の地域内にある土地のうち事業の用に供しているもの(以下「事業用資産」という。)を譲渡した場合において、その譲渡の日の属する年の一二月三一日までに、一定の地域外にある土地等を取得し、かつ、その取得の日から一年以内に、右所得資産を事業の用に供したときは、その譲渡収入金額が右取得資産の取得金額を超える場合にあっては、当該譲渡に係る資産のうち右所得金額の一〇〇分の八〇の割合に相当する金額を超える部分の譲渡があったものとして、譲渡所得の計算をすることができる旨を規定している(以下「本件特例」という。)。

本件は、相続によって取得した土地を譲渡した原告が、右譲渡所得の計算について本件特例を適用して申告したところ、被告が、右土地は事業用資産に該当しないとして本件特例の適用を認めず、更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたため、原告が、被告に対し、右各処分の取消しを求めて提訴した事案である。

二  当事者間に争いがない事実

1  塚田停市(以下「被相続人」という。)は、別紙一1ないし3記載の各土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。

本件土地上には、被相続人が居住する家屋があり(以下、本件土地のうち右家屋の敷地部分を「本件土地一」という。)、その余の部分(以下「本件土地二」という。)は、駐車場に供されていた。

被相続人は、昭和六二年五月一三日に死亡し、その子である原告及び他の相続人五名(以下「共同相続人」という。)は、その遺産を相続した(以下「本件相続」という。)。共同相続人間において、昭和六三年一一月一六日、本件相続に係る遺産分割調停が成立し、原告、佐藤綾子(以下「佐藤」という。)栗屋時子及び伊井昌子(以下「原告ら」という。)が本件土地をそれぞれ持分各四分の一の割合で共有取得した。

2  本件土地二に係る駐車場(以下「本件駐車場」という。)事業は、昭和六二年七月一四日に停止された。

3  原告らは、平成元年四月一四日、本件土地を、有限会社小野寺商店及び株式会社小野寺に対し、代金合計三億九万二四二四円で売却した。そのうち、原告の持分の譲渡価額は、右代金の四分の一の金額である七五〇二万三一〇六円である。

原告は、平成元年七月二八日、埼玉県入間市大字新光三〇六番一一七所在の土地及び建物を、夫武藤孟夫と共同で取得し、同年一〇月八日、昭石ガス株式会社に対し、右土地及び建物を貸し付けた。

4  原告は、被告に対し、平成二年三月一二日、平成元年分の所得税について、総所得金額を一五万円、本件土地の譲渡に係る分離長期譲渡所得金額を二四八六万九九九円、納付すべき税額を四九三万二〇〇〇円とする確定申告(以下「本件申告」という。)をした。

その際、原告は、本件土地二の譲渡収入金額について、別紙二の元年分申告額欄記載のとおり、その譲渡価額五七五四万二七二二円に本件特例を適用して計算した。

これに対し、被告は、平成二年七月三一日、総所得金額を一五万円、分離長期譲渡所得金額を六七三四万一七二四円、納付すべき税額を一四七八万五二〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。

その後の不服申立ての経緯は、別紙三記載のとおりである。

三  本件更正及び決定の適法性に関する被告の主張

1  総所得金額 一五万円

右金額については、当事者間に争いがない。

2  分離長期譲渡所得の金額 六五九二万八〇五一円

右金額は、原告が平成元年中に本件土地を譲渡したことによる譲渡所得の金額であり、次の(一)の金額から、(二)及び(三)の金額の合計額を控除して算出したものである。

(一) 譲渡収入金額 七五〇二万三一〇六円

右金額は、本件土地の原告の持分の譲渡価額である。この金額については、当事者間に争いがない。

(二) 必要経費 八〇七万五〇五五円

右金額は、次の(1)から(3)までの金額の合計額である。

(1) 取得費 三七五万一一五五円

右金額は、平成三年法律第一六号による改正前の租税特別措置法三一条の五に基づき、前記(一)の金額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算したものである。この金額については、当事者間に争いがない。

(2) 譲渡費用 二〇四万円

右金額は、原告が支出した仲介手数料二〇〇万円と本件契約に係る収入印紙代四万円の合計額である。この金額については、当事者間に争いがない。

(3) 取得費に加算される相続税相当額 二三〇万三九〇〇円

右金額は、租税特別措置法三九条に基づき、次のアの金額にイの割合を乗じて算出したものである。

ア 本件相続に係る原告の相続税額二四九万五五〇〇円

イ 右相続税額に係る原告の課税価格二一五三万六七八八円のうち、本件土地の相続税の課税価格の計算の基礎に算入された価額一九八八万三二三八円の占める割合

(三) 特別控除額 一〇〇万円

右金額は、租税特別措置法三一条四項に規定する額である。この金額については、当事者間に争いがない。

3  所得控除額

右金額は、基礎控除額である。この金額については、当事者間に争いがない。

4  課税長期譲渡所得金額

右金額は、1の金額から3の金額を控除し、控除しきれない金額二〇万円を2の金額から控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項に基づき、一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたものである。

以上のとおり、本件更正における譲渡所得金額は、右譲渡所得金額と同額であるから、本件更正は適法である。

また、被告は、通則法六五条一項及び二項の規定により、本件更正に基づき、納付すべき税額九五〇万円を対象として過少申告加算税を賦課決定したものであるから、本件決定は適法である。

四  争点

本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張の要旨は次のとおりである。

1  本件土地二が事業用資産に該当するか否か。

(一) 被告の主張

事業用資産とは、営利を目的とし、自らの危険と計算において継続的に行う事業のために使用する資産をいい、原則として、譲渡の当時、現実かつ継続的に事業の用に供されていることを要するが、例外的に、現実の供用が停止された後であっても、相当の期間内においては、未だ事業用資産としての性質を失うものではないと解され、右の相当の期間内か否かは、個々の場合において、当該資産の性質、現実の供用停止の理由、停止中における買換えの準備状況等を総合して判断するべきである。

本件土地二は、譲渡の当時、すでに駐車場への供用が停止され、現実かつ継続的に事業の用に供されていなかったものであるところ、右土地は、自宅に隣接した宅地の空閑地部分をいわゆる青空駐車場に供されていたにすぎないこと、右土地を売却する動機は原告らが本件相続に係る遺産分割の手段として売却代金を分配するためであったこと、本件駐車場の廃止後本件土地の譲渡に至るまでに約一年九か月が経過していること、その期間の大部分は共同相続人間の遺産分割協議に費やされたこと等の事情に照らすと、右土地は、相当の期間内に譲渡されたものということはできないから、事業用資産には該当しないというべきである。

(二) 原告の主張

次のような本件土地二の性質、売却までに時間を要した事情、事業廃止の理由、買換えの準備状況等にかんがみると、事業停止から譲渡までの期間は右土地を売却するために必要かつ相当の期間であったといえるから、右土地は、事業用資産に該当するというべきである。

(1) 本件土地は、相続開始当時、共同相続人のひとりである伊井昌子(原告の姉)の夫伊井弘毅(以下「伊井」という。)名義で登記されていたため、原告は、登記名義を被相続人に移転して真正な登記名義の回復を図る必要があった。

(2) 本件駐車場事業は、原告らの意思に基づかずに、伊井の不法な行為によって停止されたものである。

(3) 原告は、本件相続開始直後から、買換資産の下見、本件土地の境界確定、測量、分筆登記手続をし、遺産分割調停成立後、直ちに、右土地の売却を依頼し、国土利用計画法二三条一項に基づく届け出をして不勧告通知を得るなど、可能な限り迅速に売却のための準備行為をした。

原告が、本件駐車場事業が停止された後、右土地を新たに事業に供さなかったのは、遺産分割調停成立後に右土地を売却する予定だったからである。

2  租税公平の原則違反

(原告の主張)

船橋税務署が、佐藤の本件土地二に係る譲渡所得の計算について、本件特例の適用を認め、過少申告加算税を賦課しなかったのに、被告が、本件更正及び決定において、本件特例を適用しなかったことは、不公平で、租税公平の原則に反する。

3  通則法六五条四項に定める「正当な理由」の有無

(一) 原告の主張

原告は、本件申告に先立ち、被告に対し、「事業用資産の買換えのご認定について(お伺い)」と題する文書(以下「本件お伺い文書」という。)を提出し、本件特例が適用されるか否かを担当職員に相談したのに、右職員は、本件特例が適用されない旨を指摘しなかった。

原告は、そのために、本件特例の適用が認められたものと考えて本件申告をしたのであるから、原告が、被告が納付すべき税額の計算の基礎とした事実を右申告の計算の基礎としなかったことについては、正当な理由があるというべきである。

(二) 被告の主張

正当な理由とは、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであって、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうのであり、本件においては、右のような事情が何ら認められないから、正当な理由がないことは明らかである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件土地二が事業用資産に該当するか否か。)について

1  措置法三七条一項は、事業用資産が設備更新等のために譲渡される場合に、その買換えを円滑にし、事業の合理化と生産財の有効利用を図るために、一定の要件の下で、右譲渡所得に対する課税を軽減するものである。

そして、右にいう事業用資産とは、営利を目的として自らの危険と計算において継続的に行う事業のために使用する資産をいい、原則として、資産が譲渡された当時、現実かつ継続的に事業の用に供されているものをいうと解すべきである。

もっとも、事業用資産の買換えの円滑な実現を図ろうとする右措置法の趣旨にかんがみれば、従前事業の用に供されていた資産が、譲渡された当時、偶々、現実に事業の用に供されていなかった場合であっても、客観的に明白な事業継続の意思の有無、当該資産の性質、現実の供用を停止した理由、右停止後における当該資産の買換えの準備状況、供用を停止してから現実に新たな資産を取得するに至るまでの期間の長さ等に照らし、当該資産を譲渡した時点において、それが未だ事業用資産としての性質を失っているものではないと認められる場合には、当該資産は、措置法三七条一項にいう事業用資産に該当するものと解すべきである。

2  これを本件についてみるに、証拠(証人武藤孟夫の証言及び末尾に掲記の各書証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 被相続人は、昭和五〇年ころから、本件土地二を本件駐車場として賃貸し、賃料収入を得ており、本件駐車場は、常時一〇台以上の車に利用されていた。

本件駐車場は、地面が砂利で舗装され、駐車スペースの区画割りのロープが張られ、車止め、番号札が設けられていたにすぎないものであった。

(二) 本件土地は、本件相続開始当時、伊井名義で登記されていたが、右土地が被相続人の遺産であることについては、共同相続人及び伊井の間で、争いがなかった。(甲一七号証)

共同相続人は、本件相続に係る遺産分割について話し合い、原告らが本件土地を取得し、右土地を売却してその売却代金を分配することを合意していた。もっとも、本件土地の登記名義を、いったん伊井名義から被相続人名義に移転してから売却するか、伊井名義のままで売却するかという点については、争われていた。

(三) 伊井は、昭和六二年七月一四日、本件駐車場の賃貸借契約を解除するとともに、同月、本件土地一の上の家屋を解体し、本件土地を整地した。

その結果、右駐車場事業は停止され、その後、本件土地二には、何ら事業に供されなかった。

(四) 原告は、伊井が本件土地を勝手に売却することを防ぐために、昭和六二年八月八日、伊井を被告として、本件土地の所有権登記名義を被相続人に移転することを求める訴訟を提起した。

昭和六三年九月二七日、原告らの右請求を認容する判決が言い渡され(甲一九号証)、同年一一月四日、確定した右判決に基づき、本件土地の登記名義が伊井から被相続人に移転された。

(五) 原告らは、本件相続に係る遺産分割調停が成立した昭和六三年一一月一六日に、本件土地の売却を株式会社雄盛商事に対し依頼した。(甲二一号証)

(六) 原告らは、昭和六三年一二月、伊井に対し、同人が家屋の取り壊し、本件土地の整地等の費用として立て替えた金額一四〇万二二八五円を支払った。(甲八、九号証)

右認定事実及び前記代二、二の当事者間に争いのない事実を総合すれば、本件土地二の売却目的は、専ら被相続人の遺産分割の方法として右土地の売却代金を原告らで分配することにあって、本件駐車場事業自体の継続を目的としたものではなかったこと、右土地は、昭和六二年七月に本件駐車場事業が停止された後、現実に事業の用に供されたことはなく、空閑地のまま放置されたこと、本件駐車場の設置等からすれば、その事業停止後、これを譲渡するための準備にそれほどの時間を要するとは考えられないところ、原告が右土地の売却を依頼したのは、右事業停止から一年四か月後、譲渡したのは、右時点から一年九か月後であったことが認められ、このような事実に照らすと、右土地が譲渡された当時、それが事業用資産としての性質を既に失っていたものと認めるのが相当であるというべきである。

3  これに対し、原告は、以下のとおりの事業を挙げ、本件土地が事業用資産に該当すると主張する。

(一) 原告は、本件土地が相続開始当時伊井名義で登記されていたため、登記名義を被相続人に移転するまでに時間がかかった旨主張する。

しかしながら、伊井は本件土地が被相続人の遺産であること自体を争っていないことは前記認定のとおりであること、原告の伊井に対する所有権移転登記手続請求訴訟に約一年二か月を要したのは、共同相続人間の遺産分割協議の帰趨をまっていたためであることがうかがわれること(乙一号証)に照らすと、本件土地二を譲渡するまでの期間は、主として共同相続人間の遺産分割協議に費やされたものというべきであって、登記が伊井名義であることが本件土地を売却するに当たり格別支障になっていたわけではないというべきである。

(二) 原告は、本件駐車場事業は、原告らの意思に基づかずに、伊井の不法な行為によって停止されたものであり、このような事業停止の経緯をかんがみるべきであると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、既に、共同相続人間において、原告らが本件土地を売却して売却代金を分配することが合意されていたこと、原告は、本件駐車場事業を継続させるための手段を何ら取っておらず、むしろ、伊井に対し、同人が立て替えた本件土地一上の家屋の解体費用、本件土地の整地費用等を支払ったことにかんがみると、原告は、伊井が本件駐車場事業を停止したこと自体については、本件土地を売却するための準備行為の一環として了解していたものというべきである。

(三) 原告は、可能な限り迅速に本件土地の売却のための準備行為をした旨主張する。

確かに、証拠によれば、原告は、本件土地の譲渡収入で不動産を購入することを計画し、本件相続直後の昭和六二年七月ころから物件を下見していたこと(証人武藤孟夫の証言及び甲四八号証ないし五〇号証)、本件土地の境界確定、測量、分筆手続をしたこと(甲一〇、一一、五二号証)、国土利用計画法二三条一項に基づく届け出等をして不勧告通知を得たこと(甲二四ないし二六号証)を認めることができる。

しかしながら、新たな不動産を取得する経緯が記されている武藤孟夫の日記である甲四八号証ないし五〇号証の記載内容及び本件土地二が本件特例の対象となるかどうかについて、原告が税理士に相談したのは、昭和六三年秋ころに至ってのことであること(証人武藤孟夫の証言)に照らすと、原告がした物件の下見は、必ずしも当初から事業の継続の意思をもって行っていたものとみることができず、また、右のような本件土地の売却準備行為及び遺産分割に要する期間を考慮したとしても、譲渡に至るまでの期間が約一年九か月であるというのはあまりに長期間であるというべきである。

なお、原告は、遺産分割調停成立後に本件土地を売却する予定であったので、新たに事業に供さなかった旨主張するが、前記のとおり、原告が当初から事業継続の意思をもっていたとは認められないから、右主張は、その前提を欠き、失当である。

(四) したがって、原告の右主張は、いずれも採用することができず、原告が摘示する事実をもってしては、本件土地二が、譲渡された当時、事業用資産としての性質を既に失っていたとの前記認定を覆すことはできないといわざるを得ない。

4  以上2及び3に判示したところによれば、本件土地二は、事業用資産に該当しないというべきである。そうすると、本件土地の譲渡収入金額は、別紙二の異議決定額欄記載のとおりであることが認められ、また、取得費に加算される相続税額も同欄記載のとおりであることが認められるから、本件土地に係る譲渡所得の金額は、被告の主張どおり、六五九二万八〇五一円となる。

二  争点2(租税公平の原則違反の有無)について

原告は、佐藤の本件土地二に係る譲渡所得の計算について本件特例の適用を認めたのに、本件更正及び決定において右特例の適用を認めないことは、租税公平の原則に反する旨主張する。

しかしながら、本件全証拠をもってしても、佐藤に係る譲渡所得の計算について本件特例の適用が認められたという事実を認めることはできないから、原告の右主張は、その前提を欠き失当であるというべきである。

三  争点3(通則法六五条二項に定める「正当な理由」の有無)について

通則法六五条二項に定める「正当な理由」とは、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当もしくは酷になる場合をいうものであって、単に納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は、これに当たらないというべきである。

本件において、原告が委任した税理士が、被告に対し、平成二年一月一二日、本件特例が適用されるか否かについて本件お伺い文書を提出したこと、右担当職員は、本件特例が適用できない旨の指摘をしなかったことについては当事者間に争いがない。しかしながら、確定申告は、納税者が自らの判断と責任においてその納税額を確定させる行為であるから、原告が担当職員に対し申告内容について相談したとしても、それは事実上のものにすぎないというべきであって、その際、特に右職員から本件特例が適用されない旨の指摘をされなかったことをもって、原告が右特例が適用されると誤解したとしても、右の事情が「正当な理由」に当たるということはできないというべきである。

したがって、「正当な理由」があるとする原告の主張は、失当である。

四  結論

よって、原告の本件請求は、いずれも理由がないから棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

別紙一

物件目録

1 所在 東京都江戸川区中央二丁目

地番 一〇〇一番二

地目 宅地

地積 一七七・一五平方メートル

2 所在 右同所

地番 一〇〇二番一

地目 宅地

地積 九四・三一平方メートル

3 所在 右同所

地番 一〇〇二番三

地目 宅地

地積 二五九・三八平方メートル

別紙二

分離課税の長期譲渡所得の金額の計算明細書

〈省略〉

別紙三

課税の経緯

〈省略〉

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